Kenny Burrell: Midnight Blue (Blue Note)

midnightblue

今から10年ほど前、東芝EMIでは "24bit by RVG" と銘打って、ブルーノートの名盤を名録音エンジニア、ルディー・ヴァン・ゲルダー(RVG) によるリマスタリングでCD化し、紙ジャケット仕様で発売していました。と言うより、もう10年も前になるんですね。ライナーの裏に第1弾発売が1998年7月となっているのを見て改めて気づきました。なんだかつい最近の出来事だったような気がしていたんです。昨年からプラケース仕様ではあるけれど、再びRVGリマスタリングが再発されています。

このリマスタリング・シリーズでも、ヴァン・ゲルダー本人が会心の出来であると語っているのが、今日紹介する『ミッドナイト・ブルー』です。録音は1963年1月7日。リーダーはケニー・バレル(g)で、他にスタンリー・タレンタイン(ts)、メジャー・ホリーJr.(b)、ビル・イングリッシュ(ds)、レイ・パレット(conga)という60年代ブルーノートの色彩が濃いメンバーです。

1曲目の "Chittlins Con Carne" はケニー・バレルのオリジナル曲で、このアルバムの顔とも言うべき曲です。最近「大和証券」のCMに使われましたが、イントロが長いので30秒CMでもほとんどがイントロに費やされ、テーマが出て来るのはCMの終わりぐらいということになり、それが却ってこのCMを印象的なものにしています。曲として聴く分にはそんなに長く感じるイントロではないのですが、CMの時間枠の中では長く感じるものなんですね。しかし名曲です。2曲目の "Mule" はブルース。ゆったりとしたスローブルースで黒々としたフィーリングが横溢しています。スタンレーが名ソロ。3曲目の "Soul Lament" はバレル・オリジナルのバラードで、ソロ・ギター。バレルの特色がよく分かる演奏に仕上がっています。4曲目でタイトル曲の "Midnight Blue"、5曲目の "Wavy Gravy"もバレル作曲のブルース。6曲目の "Gee Baby" は一応スタンダードですが、これもブルースの雰囲気を持った曲です。最後の曲 "Saturday Night Blues" も当然ブルース。スローなシャッフルのリズムに乗って各人がレイドバックしたソロを取ってゆきます。

いつもならば1曲ずつソロ・オーダーを書いたり、寸評を加えたりするのですが、このアルバムに関してはそういうことが余計に思える。と言うのも、このアルバムは全体で一つの曲、つまり『ミッドナイト・ブルー』という曲であり、一つ一つのナンバーはその楽章という感じがするからです。それほどまでにカラーがブルース一色に統一されたアルバムです。この頃から、いわゆるグルーヴ物と呼ばれるもう少し饐えた感じの退廃したアルバムが出てくるわけですが、この作品は饐える直前の熟成感が堪えられない名盤だと思います。

Clifford Brown: New Star on the Horizon(Blue Note)

new star

日記ブログのほうで『美味しんぼ』の記事を書きましたが、その際10インチ盤について言及しました。レコードのLPにはサイズで12インチ(30cm)と10インチ(25cm)があり、初期のジャズLPには、よくこの10インチ盤が用いられていました。しかし12インチに比べると、当然ながら収録時間が短く、アドリブの発達とそれに伴う収録時間の延長化によって12インチが主流になっていったわけです。

この10インチオリジナルは、おそらくコレクターという人々からすると垂涎の的なのでしょうが、私はそれほど興味がありませんでした。しかし、数年前東芝EMIからブルーノート(そして後にはベツレヘムなど他レーベル)の10インチが復刻されたことがあり、その際にできるだけ持っているCDやレコードと重複しないように集めたことがあります。今回紹介する『クリフォード・ブラウン―ニュー・スター・オン・ザ・ホライズン』もそのときに買った一枚です。しかし、これはBNのクリフォード関係をまとめた名盤『クリフォード・ブラウン・メモリアル・アルバム』と重複しまくり、というか全曲が納まっています。この10インチ復刻は完全予約制で、私もカタログを見ながら被らないように被らないように注文し、その時点ではこのアルバムを当然除外していました。それで当日品物を取りに行くと、いろいろよくしてくれていた店員さんが「私は『クリフォード』を一枚買いましたよ」といって見せてくれたわけです。実物を見ると、しかしなんとも欲しくなるもので「やっぱり僕も注文しておけばよかった」と言うと、「お譲りしますよ」とのこと。そのまま買って帰ったというわけです。

録音は1953年8月28日。メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ジジ・グライス(as, fl)、チャーリー・ラウズ(ts)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(ds)のセクステット編成。
A面1曲目は "Cherokee"。"All the Things You Are" や "How High the Moon" と並ぶバップの聖典です。曲の最初と終わりにアレンジがありますが、あとはクリフォードのソロ。1コーラス目はジョン・ルイスのピアノが弾くチェロキーのメロディーの上空でブラウニーのペットがアドリブを炸裂させます。後にブラウン~ローチ双頭クインテットで絶世の名演を繰り広げるこの曲は、その演奏の冒頭でハロルド・ランドとブラウニーが互いに半コーラスずつメロディーとアドリブを対位法的に吹き分けています。その原型は実にここにあるわけですね。1コーラス目のサビに入ったところはパーカーの影響がもろに出ています。2コーラス目。ピアノがコンピングに変わり、より自由に飛翔するブラウニーが聞けます。2曲目の "Easy Living" がこれまた名演。ちょうどストリングスのようにアレンジされたバックを従えて、素晴らしいバラード演奏を繰り広げています。途中ダブルテンポになるところでナミダモノのフレーズが出ます。3曲目は クインシー・ジョーンズの "Wail Bait"。ラテンリズムのイントロに続いて整然としたアレンジのテーマが演奏されます。ソロの先発はジョン・ルイス。続いてジジのアルト。再びテーマが繰り返されたあと、満を持してブラウニーの輝かしいソロが炸裂します。次がラウズのテナーですが、やはりブラウニーには誰もかなわない。

B面1曲目はクリフォードのオリジナルで "Minor Mood"。イントロは冒頭がメジャーなのにマイナーになっていく不思議な曲想。テーマは『クールの誕生』の "Jeru"に似たようなメロディーで、ちょっとトリスターノ楽派の風味も入っています。そのせいかブラウンのソロも長く起伏に富んだホリゾンタルなライン。続くジジ、ラウズのサックスもそうで、なんだかリー・コニッツのセッションを聴いているような感じがします。2曲目の "Hymn of the Orient" はジジ・グライスの曲。哀愁のあるテーマです。ブラウニーが先発。曲の哀感を保ったまま目くるめくソロを展開します。ラウズとジジは半コーラスずつソロを取り、ピアノのジョン・ルイスが美しいソロを取ります。ドラムと各楽器との4バースを経て後テーマになだれ込みます。3曲目の "Brownie Eyes" はタイトル通りクリフォードのペットを全面にフィーチャーしたクインシーのバラード。A面の「イージー・リビング」と対になるような名バラードです。

最近このジャケット・デザインで『メモリアル・アルバム』が再発されたようです。しかも別テイクを含めると計18曲、3倍も入っています。『メモリアル・アルバム』は従来のジャケット写真のほうがよいような気もしますがRVGリマスターということで、音質も楽しみです。

Herbie Hancock: River - the joni letters (Verve)

river

授業でハービー・ハンコックの音楽を聴かせました。「カンタロープ」。何人かは反応していましたが、中には狐につままれたような顔して聴いている学生もいて、やはり歌がないとポイントを絞って聴けない人もいることに改めて気づいたわけです。「歌入りでハービーさんのCDというと去年の『ポッシビリティーズ』かな」などと考えながら、授業終わりに「はり猫」へ行くとかかっていたのがこのアルバム。聴いていると、ショーターやティナ・ターナーも参加している。マスターに訊くと「つい最近出たアルバムですよ」とのこと。早速アマゾンで注文して取り寄せました。

アルバム・コンセプトはジョニ・ミッチェル曲集です。この女性はカナダ出身のロック歌手で、私達ジャズファンからするとロック畑の人が作ったということで話題になった『ミンガス』というアルバムと、ジャコ・パストリアスの恋人ということで記憶している人が多いかもしれません。

メンバーはハービーさんの他、ウェイン・ショーター(ts,ss)、デイブ・ホランド(b)、ヴィニー・カリウタ(ds)、リオーネル・ルエケ(g)。また、各曲にそれぞれ歌手がついて歌っているところは『ポッシビリティーズ』と似た構成となっています。

1曲目はジョニの名作 "Court and Spark"、歌はノラ・ジョーンズです。抑制感のあるハービーのイントロから、いわゆる「おしゃれなリズム」になってノラのけだるい歌声が入ってきます。中間で聴かれるショーターのソプラノは典型的なもの。もっとも、ショーターは常に個性満開なので、どんなことがあってもケニーGと間違われるようなことはないのですけれどね 8) ハービーさんのソロは、かなり前衛的です。
2曲目はブルース的な "Edith and the Kingpin" で、歌うのはティナ・ターナーです。イントロは「チャンズ・ソング」みたいです。ここでのティナは "We Are the World" の男みたいな声や "What's Love Got to Do It?" に聴かれる迫力はあるけれどくぐもったような声に比べると、ずいぶん伸びています。タバコをやめたのでしょうか?ショーターはテナーを吹いています。
3曲目は歌なしで "Both Sides Now"。ハービーのピアノとショーターのテナーによるインタープレイが全面的にフィーチャーされています。
4曲目でタイトル・チューンの "River" はコリーヌ・ベイリー・メイの歌。彼女の事をネット調べると、キャッチフレーズが「ソウルフルでオーガニックな歌手」…「オーガニックな歌手」って何でしょ?野菜かっつうの!おそらく「ナチュラル」とか「健康的」という意味であることは推測できますが、つくづくですね。ちょっと鼻にかかったようなかわいらしい声で呟くような歌い方は魅力的です。
5曲目は再びインストに戻って "Sweet Bird"。これもジョニの曲。私は歌なし万事OKなので、アルバム全体ではこの曲が一番好きです。ショーターのテナーもじっくり鑑賞できるし、どこへ行くのか分からないような自由すぎるソロでありながらも、歌い上げるところはきっちり歌い上げる構成力を持ったショーターのソロが堪能できます。背景で宇宙的なイメージの高音を出しているのはギターのルエケでしょうか?効果的です。
6曲目の "Tea Leaf Prophecy" では、満を持して Joni Mitchell 本人が登場します。ブルース的に延々と繰り返して反戦が謳われる歌詞を、彼女が説得力ある声で歌っていきます。カーメン・マクレエのように分かりやすいディクションです。
7曲目。ここで唐突にエリントンの "Solitude" が来ます。名曲で好きな曲だけに、ハービーさん流に解体されているのが却って残念です。
8曲目 "Amelia" を歌うのは、ボサノヴァ歌手のルシアーナ・スーザ。ボッサ風のかろみのある声で歌い流していきます。逃避行の歌ですかね。
9曲目の "Nefertiti" は言わずと知れたショーターの名曲。マイルスのアルバムでは、フロントが延々同じメロディーを刻んで、リズムのほうが逆にアドリブをしていくという変わった構成でしたが、ここでもショーターはかなり解体しつつもテーマに拘泥し、ピアノを始めリズム隊がインプロヴァイズしています。ただ、ショーター本人がテーマからついつい逸脱するので、ときおり集団即興演奏になりギターがサポートしてます。
ラスト・ナンバーの "The Jungle Line" は再びジョニの曲で、詩を朗読するのはカナダの異色シンガーソングライター、レナード・コーエン。60年代の前衛芸術家達の試みみたいな感じで、「随分ゲージツしちゃって」という印象のトラックです。

最近のハービーさんは高踏的なんだか卑俗的なんだかわからないようなところがありますが、このアルバムはバランスが良いように思います。個人的にはトラック1,2,4,5,6がよかったです。

Barney Wilen: French Ballads (IDA Records)

French Ballads

バルネ・ウィランにはこのアルバムから入門したために、ずっと「パリの粋なエスプリを感じさせるテナー」という印象を持っていました。寺島さんも、その著書で「国立(くにたち)にはバルネがよく似合う」とおっしゃっていましたが、確かに雨の昼間の国立でこの『フレンチ・バラッズ』を聴いたらとても合いそうです。で、このアルバムから興味を持って他の作品を聴いていったのですが、ずいぶんとまた話が違う。同じ時期の他の作品ももっと前衛的なアプローチをしていたり、逆に極めて正統派のバップをやっていたりするし、若い頃の作品にいたってはハード・バップど真ん中だったりして驚きました。しかし、例外的な作品であるにせよ、この『フレンチ・バラッズ』は大傑作です。その証拠というわけではないですが、廃盤のためAmazonマーケットではなんだかとんでもない値段をつけて売られています。私の場合は一回アナログで再発された時にたまたま見つけて買いましたが、幸福な買い物でした。今でも折に触れて聴き続けています。

セッションは1987年6月24~26日、録音はフランスのイエール。Google Earthで調べてみると、パリ近郊の町のようです。メンバーはバルネ・ウィラン(ts)の他、ミシェル・グライユール(p)、リカルド・デル・フラ(b)、サンゴマ・エベレット(ds)のワン・ホーン・カルテット。曲はシャンソンを中心として全てフランス関係の曲で、それがタイトルの由来となっています。

A面1曲目「詩人の魂 (L'Ame des Poetes)」、シャンソン曲です。しかし、これが非常に深い印象を与えます。冒頭のテーマからフランスの香りがプンプン漂う。バルネの音色も深みが増した感じ。そして凄いのがドラムのサンゴマ・エベレット!彼のシンバル・ワークがこの演奏を傑作へと押し上げた感があります。いわゆるインタープレイでバルネに積極的に絡んでいくわけです。この1曲で打ちのめされました。

A面2曲目はミシェル・ルグラン作曲ですが、ジャズでもたまに取り上げられる "What Are You Doing the Rest of Your Life" 、邦題「これからの人生」。サブトーンを駆使して低音部を吹ききっている傑作で、テーマを歌い上げているだけですが哀愁感たっぷりです。3曲目「パリの空の下 ("Sous le Ciel de Paris")」はエディット・ピアフも歌っていたシャンソンの名曲。アップ・テンポの3拍子でAメロを低音部で吹き、サビから高音部に移ってそのままアドリブに突入しますがあっという間に終了。むしろ次のピアノがフィーチャーされた感じでなかなか聴かせるソロ。ピアノが終わって再びバルネ登場。少しソロを取ってエンディングという構成です。

A面4曲目は再びルグランの曲で、日本でも有名な「おもいでの夏 (Un Ete)」。ソプラノ・サックスでやはり哀愁たっぷりに吹き上げています。ラスト曲は「夢の城 ("Monoir de Mes Reves")。ジャンゴ・ラインハルト、フランス読みすればジャンゴ・レナールの曲です。ドラムが叩き出すビギンのリズムの上でバルネとグライユールがソロを取り、楽しい演奏が繰り広げられています。


B面1曲目は「枯葉 ("Les Feilles Mortes")」。フランス性を出すためにヴァースから演奏しています。テーマからは4ビートのミディアム。演奏時間はこのアルバムで最長の7分10秒でアドリブを4コーラスとっています。ただ4コーラス目はひょっとしたらピアノが入るはずだったのに入らなかったのか、バルネが途中から入っています。しかしどのコーラスもスムーズで美しいアドリブ。2曲目は再びルグランの曲で "Once upon a Summertime"。しかし、高井さんのライナーによると、これも元歌はシャンソンだそうです。ピアノを大きくフィーチャーした構成で、バルネも高音部にまでサブトーンを浸潤させさわやかに吹いています。ベース・ソロも出てきます。

B面3曲目はジャンゴの曲で "Tears"。ピアノレスの構成で、わりと自由にアウトしたり、パーカッシブ・トーンを繰り出したり、フィリージャズに傾斜した経験をいい形で生かしています。そして最後は再びピアフとサッチモの名唱で知られるシャンソン曲「バラ色の人生 ("La Vie en Rose")」。冒頭からアドリブをはじめて、ちらちらとテーマの片鱗を吹きつつもじらせながら、最後の1コーラスでやっとテーマの全貌を明らかにするという心憎い構成。こういう「誰でも知っている」名曲にふさわしい仕掛けです。

下のリンク先はCDのもので、私の持っているLPよりもずっと曲数が多いです。値段はとんでもないものですが地道に中古レコードをまわれば、もっとリーズナブルな価格で求められるはずです。

Art Farmer: To Duke with Love (East Wind)

To Duke with Love

日本のジャズ・レーベル「イースト・ウィンド」というと、ナベサダや菊地雅章、富樫雅彦ら日本の一流ジャズ・ミュージシャンに光を当てる一方、ザ・グレイト・ジャズ・トリオのアルバムでL.A.だか桑港だかの抜けるような青空をジャケットに使ったレーベルとして、私の記憶にはインプットされています。風景メインのあのジャケットは「時代がない」ように見えて実は非常に「時代がかって」いて、今見ると「ああ、あの頃流行のね」という感想がどうしても湧いて来るのが不思議です。風景の切り取り方にも時代性というかハヤリスタリがあるのでしょう。

今回紹介するアート・ファーマーの『トゥ・デューク・ウィズ・ラブ』はそのイースト・ウィンドで制作された名アルバムの一つで、1975年3月5日にニューヨークで録音されたものです。タイトルが示すとおりデューク・エリントンに捧げられたもので、彼はその前年の1974年5月24日に亡くなりました。メンバーはアート・ファーマー(flh)の他、シダ・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)という名人達です。プロデューサーは伊藤潔、伊藤八十八、それに守崎幸夫。

この頃の録音の特色として、レンジを広く取る代わりに音のエネルギーがないものが多くありましたが、これは普段のボリューム位置で聴くと薄く聴こえるけれど、ボリュームを上げていくと音全体がふんわりと厚くなり、サム・ジョーンズのベースもビリー・ヒギンズのシンバルも真に迫って聴こえてくるような名録音です。うちの安いキカイでもそうなのでよい機械を使えばもっとよく聴こえることでしょう(LPでの話です)。

A面1曲目 "In a Sentimental Mood"。ファーマーのフリューゲル・ホーンがどこか遠くへ呼びかけるような音色で哀愁あるテーマを演奏し、そのままソロに。バックのベースとドラムの張り切り方が凄い。

2曲目は "It Don't Mean a Thing"、「スイングしなけりゃ意味がない」です。ベースのテーマから入り、フィル・インで全員が合奏に突入します。ソロの先発はシダ・ウォルトン。エリントンを意識したかのようなソロです。続いてファーマー。ここでもウォルトンのコンピングが独自の色合いを出しています。続くベース・ソロを経てテーマに返します。ラッパとドラムが「ユニゾン」でテーマを演奏し終えます。実に名演。

3曲目の "The Star Crossed Lovers" はシェイクスピア・フェスティバルにエリントンが書き贈った曲で、『ロミオとジュリエット』をテーマとした曲だそうです。このタイトルの出典は有名で、同戯曲のプロローグで述べられる "From forth the fatal loins of these two foes, a pair of star-cross'd lovers, take their life"(お互いを仇と憎むこの両家から、この星回りの悪い一対の恋人は、生を受けたのでございます) という詩行からきています。半音進行を伴ったなんともいえぬ味わいと懐かしさを持った曲で、フリューゲル・ホーンの音色とも相性がよく、素晴らしいバラード演奏に仕上がっています。続くウォルトンのピアノも上手い。鍵盤を連打しながらアドリブを盛り上げるや、一転ブルース・フィーリングあふれたソロに切り替えるところなんか息を飲みます。

B面は1曲目が "Brown Skin Gal in the Calico Gown"。イントロのウォルトンがエリントンにそっくり。テーマはAメロでドラムがシャッフルを叩き、Bメロが4ビート。ソロに入るとダブル・タイムになりますが、なんと言うかウォルトンのコンピングとヒギンズのドラミングのために、小さなエリントン楽団がそこで演奏しているようです。面白いことにピアノ・ソロになるとエリントン風味は消して、シダ・ウォルトンそのもののアドリブとなっています。

2曲目は有名な "Lush Life"、ビリー・ストレイホーンの曲。曲そのものが美しいので余計な色をつけずに、フリューゲル・ホーンの魅力全開で演奏しています。この楽器はどこか孤独の翳りをもった音色なんですね。それが曲想とマッチしています。

3曲目の "Love You Madly" はエリントンの口癖をそのまま曲名にしたもの。マイルスも "He Loved Him Madly" という曲を書いてエリントンに哀悼の意を捧げています。ミディアム・スイングの演奏だけれど、テーマはフリューゲル・ホーンとミスマッチ。ただ、アドリブに入ってからくっきりとしたラインを描き出すファーマーはさすが。途中ダブル・タイム・フィーリングをはさみ熱いソロを取っています。

CD化もされているようです。別テイクの追加などはないようですが、オリジナル6曲でも充分価値のあるアルバムだと思います。ファーマーが吹いているのはフリューゲル・ホーンですが、便宜上トランペットに分類しました。

Phil Woods: Woodlore (Prestige)

woodlore

フィル・ウッズはヨーロッパ・リズム・マシーン時代のギラギラとしてメタリックというかメカニカルな吹き過ぎ感が強烈に印象に残っていて、一時期敬して遠ざけていました。その後、『ビッグ・コミック・オリジナル』というマンガ誌に連載されていた「風の大地」というゴルフマンガを読むでもなく眺めていたら、なんだかフィル・ウッズっぽい白人アルティストが取り上げられていて(バド・シャンクっぽくもあるんですが)一回腰をすえて聴いてみようという気になりました。初期から中期、そして近作まで聴いてみましたが、自分にとってツボだったのはやはり、若い頃の作品、とりわけ、『ウォーム・ウッズ』や『ウッドロア』、『スガン』などでした。アート・ペッパーほど情感を絡ませず、かといってリー・コニッツのように高踏的で超俗的でもないアルトです。程よい情感と、程よい哀愁、程よいブルース・フィーリングと優れた楽器のコントロールといった印象で、そつがないというのか駄作がない印象です。

今日取り上げる『ウッドロア』は1955年11月25日のセッション、ウッズ24歳の時です。メンバーはウッズ(as)の他、ジョン・ウィリアムス(p)、テディー・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds)という編成で、若きウッズがワンホーンでのびのびと吹いたアルバム。

1曲目でタイトル・チューンの "Woodlore"。ウッズのオリジナル曲で、軽快なミディアム・テンポ。流れるようなテーマ演奏から、ブレイクを経てアドリブに突入すると「パーカー・フレーズ」を分かりやすく溶け込ませながらのプレイ。続いてジョン・ウィリアムスによるピアノ・ソロは左手が活躍するブギウギスタイルで面白くなっています。そのあとはアルト対ドラムの4バースになりエンディング。

2曲目のバラード、"Falling in Love All Over Again" では、蕩けるようなウッズのアルト・サウンドが聴けます。冒頭からグリッサンドをかけたオフ・ピッチの音色で惹きつけ、華麗なキーワークでしっとりと歌い上げる。ピアノが手数の多いタイプですが、ここではアルトを鼓舞するように上手くマッチしています。エンディング処理は「上手い!」の一言。

3曲目は "Be My Love"。ルー・ドナルドソンも取り組んだスタンダードで、聴き比べてみるのも面白いかも。この曲はアップテンポで賑やかにやっても哀愁が含まれている曲。ルーには確かに哀愁がありますが、ウッズの哀愁はただ事ではない。パーカーのフレージングを混ぜ込みながら、翳りのあるフレージングが光っています。ピアノもバップ語法から少しずれた独自性のあるソロを取っています。再び4バースを経てテーマに戻って終わり。

4曲目 "On a Slow Boat to China" はロリンズの名作が光りますが、結構古い曲。ロリンズが悠然とリズムに後ろから乗っていくのに対して、ウッズは突っかけ気味に吹きます。アドリブに突入してもそのまま疾走。それでいて構成はしっかり考えられているところがさすがです。

5曲目は "Get Happy"。チョッパヤです。リフの畳みかけが多いもののバップの醍醐味を感じさせ、レコーディング時間の限界までといった感じでコーラスを重ねます。バリバリ吹くパーカー直系の面目躍如です。

ラストはオリジナル、といってもブルースの "Strolling with Pam"。ウッズのブルース・プレイの典型的な演奏となっています。

CDになって別テイクが追加されましたが、別テイクなのでここでは触れません。

ウッズ青春の輝きを捉えた名アルバムです。


Bix Beiderbecke: Bix Beiderbecke 1927-1929

bix

先日授業で観たルイ・アームストロングの伝記DVD『サッチモ』についての感想を集めると、多くの人がネットで調べたらしく「もう一人の天才ビックス・バイダーベックと並び称された」なんて書いてあるんですね。「もう一人も二人もビックスなんて知らないでしょうに」と思いながらも、「こうやって写しづらい名前を写すことで覚えてしまい、いつかビックスに出会う縁ができたかもしれないな」と期待もするわけです :P ビックス・バイダーベックという人はルイと同じ時代を生きたコルネット奏者で、ルイとは全く違ったスタイルと音色を持っていました。ヴィブラートをかけない奏法で、ルイがラッパを「吹いて(blow)」いるのに対して、ビックスの場合は「鳴らして(ring)」いるような印象の実に輝かしい音色です。彼のコルネットはたとえビッグ・バンドの中でも埋もれなかったと言われ、彼の入ったアンサンブルはそうでないアンサンブルよりもいっそう輝きをもった音色だったそうです。多くのミュージシャンから敬愛されていた彼ですが、1931年8月6日28歳でこの世を去りました。死後伝説化され、50年代にはカーク・ダグラス主演の伝記映画『情熱の狂想曲(原題 Young Man with a Horn)』が作られ、近年でも『ジャズ・ミー・ブルース(原題 Bix)』というイタリア映画が撮られました。夭折であることと残っている写真がハンサムなため伝説化もされやすく、私は中原中也に似た印象を持っています。多くの白人ミュージシャンに影響を与えましたが、特筆すべきはマイルスに対する影響です。トランペットの主流派といえばルイ~ロイ・エルドリッジ~ディジー・ガレスピー~ファッツ・ナヴァロ~クリフォード・ブラウンというホットな系譜ですが、マイルスのラッパはそれとは異質でクールな音色を持っています。そしてそのルーツは実にビックスにあるといわれています。

このアルバムはLP時代にコロムビア系の音源から油井先生が編集したもので、A面B面で計16曲が収められています。ヴィクター系の音源が上で述べたようなビッグ・バンド中心のもので、ソロは数小節であるのに対して、コロムビア系の音源には畢生の名作 "Singin' the Blues", "I'm Coming Virginia" を含むコンボ演奏が多数あり、その中から選りすぐったのがこの選集といえるでしょう。また、このアルバムには盟友フランキー・トランバウアーとのセッションも数多く収められています。このフランキー・トランバウアーという人はCメロディー・サックスといって楽器のキーがC(アルトとバリトンはE♭、ソプラノとテナーはB♭)のサックスを吹いていました。そして重要なことはこの二人が全く同じコンセプトで演奏していること、そしてレスター・ヤングはテナーでフランキー・トランバウアーのフィーリングを出そうとしたことです。つまり、ビックス~トランバウアーのコンビは、レスターやマイルスを経由して、現代に繋がっているというわけです。

A面
1. Singin' the Blues
2. I'm Coming Virginia
1927年の吹き込み。ビックスの吹き込みの中で、最高傑作といわれている2曲です。「シンギン・ザ・ブルース」のソロは同時代のミュージシャンが皆こぞって暗記したといわれる無駄のない名ソロ。また「私はヴァージニアへ」のほうは、ベニー・グッドマンのお気に入りで、伝説的な『カーネギー・ホール・ジャズ・コンサート』でもこの曲を取り上げ、ビックスのソロを一音一句再現しているほどです。

3. For No Reason at All in C
タイトルからも分かるように、フランキー・トランバウアーのCメロディー・サックスを全面的にフィーチャーした演奏。エディー・ラングがギター、ピアノはビックスです。最後にコルネットに持ち替えて吹いています。

4. In a Mist
別名 "Bixology" と呼ばれるビックスによるソロ・ピアノ。印象派のような演奏です。

5. Wringin' and Twistin'
3曲目の"For No Reason at All in C"と同じトリオによる演奏。やはりクールなトランバウアーの演奏が中心。

6. At the Jazz Band Ball
7. The Jazz Me Blues
8. Goose Pimples
Bix and His Gangというレコーディング・コンボの演奏。トランバウアーはいません。先頭に立ってアンサンブルを引っ張っていくビックスの高らかな音色が響き渡る "At the Jazz Band Ball"。 選集や伝記映画のタイトルともなった名演 "The Jazz Me Blues"。 "Goose Pimples"(鳥肌)という滑稽なタイトルにもかかわらず、力いっぱい吹いて、ソロの飛び出しまでやる8曲目など名演ぞろいです。

B面
1. Since My Best Gal Turn Me Down
2. Somebody Stole My Gal
メンバーは上記3曲と同じBix and His Gang。1.はテンポを動かしながら、自在にソロを取っていくビックスが素晴らしい。2.は吉本新喜劇のテーマでも有名な曲で、この曲から1928年の吹き込みに移っています。

3. 'Taint So Honey, 'Taint So
4. That's My Weakness Now
ポール・ホワイトマン楽団の演奏。3曲目では若いビング・クロスビーがこれまたクールに歌っています。4曲目もビングを含む「リズム・ボーイズ」というコーラスの歌入り。トランバウアーが加わってソロを取っていますが、3.で吹いているのはバスーンだそうです。

5. Ol' Man River
6. Wa-Da-Da
7. Margie
再びBix and His Gangによる演奏。どれも名演でビックスの素晴らしいコルネットが聴けます。

8. Baby, Won't You Please Come Home
ビックス研究家を悩ませるといわれるこのトラックでは、ビックスの模倣者であったアンディー・セクレストが加わっていて、ちょっと聴きではビックスのソロがどの部分か見分けがつかないそうです。アンディー・セクレストのほうが腕前が落ちるのに見分けがつかなくなっているのは、この録音の1929年、ビックスはすでに体調を壊してプレイの上でも下降線になっていたことが原因だといわれています。

今ではCDの利点を生かして、ほとんど全集といっていい量のトラックが同じような値段で手に入ります。そんな中の一つを下にリンクしておきます。